◆ Baker’s asthmaとは?|パン職人に多い職業性喘息
パン屋さんの職人さんに喘息を発症される方がいらっしゃいます(パン職人喘息)。これは、小麦粉や酵母、食品添加酵素などの粉塵を長期吸入することで発症する「職業性喘息」の一種です。その他にもパティシエ(製菓業)、製粉工場などで働く方に多くみられます。
✅ 主な原因職業:
・パン職人(baker)
・製菓職人、パティシエ
・製粉工場作業員
・食品加工業者
◆ 原因物質(アレルゲン)|小麦粉や酵素に要注意
Baker’s asthmaの原因となるアレルゲン(吸入抗原)は多岐にわたります。
アレルゲン | 説明 |
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小麦粉 | グルテン、アルブミン、グロブリンなどのタンパク質 |
酵素添加物 | α-アミラーゼ(カビ由来が多い)、セルラーゼなど |
酵母(イースト) | ベーカーズイースト(Saccharomyces cerevisiae) |
その他 | ライ麦粉、大麦粉、蕎麦粉、添加香料・調味粉など |
小麦の粒子は非常に微細で、下気道まで到達しやすく、気道の炎症を引き起こします。
◆ 主な症状|勤務中の咳・喘鳴・息苦しさに注意
パン職人喘息の症状は、喘息と同じようなの呼吸器症状を呈します。典型的には以下のような症状が作業中または作業後に現れます。
・咳(特に乾いた咳)
・喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)
・息苦しさ、呼吸困難
・胸の圧迫感、違和感
・夜間悪化や早朝の咳
✅ 特徴的な所見:
「勤務日は悪化し、休日は改善する」という職業性喘息の典型的パターンが見られます。
◆ 診断方法|職業歴の聴取がカギ
診断は、問診・検査・アレルギー評価を総合して診断を行います。
1. 詳細な問診
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症状と業務の時間的関連(勤務日 vs 休日)
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職場の粉塵環境や換気状況
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他の同僚に同様の症状があるか
2. 呼吸機能検査・PEFモニタリング
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スパイロメトリー:一秒率や一秒量、フローボリュームカーブを評価
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ピークフローモニタリング:勤務日と休日での変動を記録
3. アレルギー検査
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血中特異的IgE抗体検査(小麦・ω5グリアジンなど) →当院でも実施しております。
◆ 治療・対策|曝露回避が最も重要
Baker’s asthmaの管理は、原因物質への曝露を減らすことが最優先です。
1. 職場環境の改善・曝露対策
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粉塵の湿潤化(小麦粉に水分を加える)
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局所排気装置の導入
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換気の徹底
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職場内での配置転換や職種変更も検討
2. 薬物療法(気管支喘息の治療に準じる)
吸入薬が主な治療になります。気管支喘息と同様に吸入ステロイド(ICS)+長時間作用性β刺激薬(LABA)の配合剤を使用することで症状が改善します。ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRAs)や必要時にオマリズマブ(抗IgE抗体)などの生物学的製剤も併用します。
参考資料:
日本アレルギー学会HP:職業性ぜん息/Q&A
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=15
◆ まとめ|Baker’s asthmaは早期発見・早期対策が鍵
小麦粉や酵母、食品添加酵素といった微細な粉塵を日常的に吸い込むことで、気道にアレルギー反応や炎症が生じ、喘息のような症状を引き起こすことがあります。この病気は、早期に気づき、適切に対応することで症状の進行を防ぐことが可能です。
当院では、呼吸器内科専門医による診断と治療はもちろんのこと、総合的なサポートを行っています。皆さまが健康を保ちながら、大好きなお仕事を続けられるよう、私たちがお手伝いします。