どんな病気?
肺非結核性抗酸菌症(肺マック症)は、抗酸菌による肺の感染症で、長引く咳や痰、血痰・微熱などの症状が出ます。肺非結核性抗酸菌は土壌、水道水、シャワー、加湿器などに広く存在する環境菌で、人から人への感染性は極めて低いとされています。近年、国内外で有病率が増加傾向にあります。中高年の女性の多い病気で、咳や痰などの症状が長く続きなかなか改善しないことから、困っている方も多くいらっしゃいます。
ここでは、肺マック症(MAC症)の特徴・症状や診断方法について説明します。
特徴・症状
肺マック症は、やせ型の中高年女性に多く見られます。原因は不明なことが多く、一方で気管支拡張症や肺気腫などの肺の病気をもともと持っている方も多く存在します。
慢性的な咳や痰が続くことがあり、場合によっては血痰や微熱が続くこともあります。初期の段階では無症状のことも多く、健康診断のレントゲンで異常を指摘されて病院受診される方も多くいらっしゃいます。
また肺マック症は、気管支拡張症の原因となることがあります。気管支拡張は、肺炎などの感染症を繰り返したり、血痰の原因となりえます。
非結核性抗酸菌という菌は、実はかなり多く種類があります。以下が代表的な菌です。
- Mycobacterium avium complex (MAC)
- Mycobacterium kansasii
- Mycobacterium abscessus
代表的な原因菌としては、Mycobacterium avium complex(MAC)が知られており、肺マック(MAC)症と呼ばれることもあります。MACには、Mycobacterium aviumとMycobacterium intracellulareの2種類があり、これらをまとめてMACと呼び非結核性抗酸菌症の約90%を占めます。
検査方法・診断
①胸部レントゲン・CT検査
胸部レントゲンやCT検査では、粒状影や気管支拡張が見られます。
②喀痰検査
痰の中に菌がいるかどうかを調べる検査です。
主に抗酸菌塗抹検査、PCR検査、培養検査などを実施します。
実は肺マック症は、上記の検査方法を組み合わせても一度の喀痰検査で検出されるのが難しいことも多く、複数回の痰の検査を繰り返してやっと菌が分かることもしばしばあります。そのため根気強く検査を行っていくことも重要なのです。CT画像などで肺マック症が疑わしいにも関わらず、複数回の痰の検査でも菌が検出されない場合は気管支鏡検査を行います。
③気管支鏡検査
気管支鏡検査は、通常総合病院などの大きな病院において入院で行います。ただし外来(日帰り)で検査を行っている病院もあります。
繰り返しの喀痰検査でも菌が検出されない場合は、気管支鏡検査を実施します。簡易肺胞洗浄といって、10-20mlの水で肺を洗い、その中に菌がいるかどうか確認する検査です。 通常の喀痰検査(口からペッと吐き出した痰で行う検査)よりも菌の検出される確率が上がります。
治療方法
菌の種類に応じに応じた治療を行います。
M.aviumやM.intracellureでは、リファンピシン・エサンブトール・クラリスロマイシン(もしくはアジスロマイシン)という3種類の薬を使用します。気持ち悪い、食欲低下、肝機能障害、視神経障害などの副作用が出ることがあります。副作用が強く出る場合は、薬をいったん中止します。
上記の治療でも改善しない場合や副作用で薬の継続が困難な場合は、ほかの薬剤を使用します。アミノグリコシド系の抗生物質(アミカシンやストレプトマイシン)、吸入薬(アリケイス®)などを使用します。
一方で肺マック症では、全例が上記のような治療が必要なわけではありません。軽症の方では、治療せず経過観察となる方もいらっしゃいます。その場合は、胸部レントゲンや胸部CTをフォローアップし、影が悪化するようなら治療を検討します。
無症状例、空洞を認めない結節・気管支拡張型の軽症例、ご高齢や基礎疾患により副作用リスクが高い場合などは、治療を行わないという選択肢もあります。
治療中は、定期的にレントゲンや喀痰検査を行い、治療効果を判定します。
- 胸部レントゲンやCTで影が改善してきているか
- 喀痰培養検査が陰性化してきているか
- 胃腸障害や視力障害などの副作用が出ていないか
などを定期通院では確認していきます。
院長からのメッセージ
肺マック症は、長引く咳や痰の原因となる病気の一つです。呼吸器病の中でも診断や治療が難しい病気で、しっかりとした検査や定期的な画像フォローアップが必要です。また、治療には長期間を要し、患者さまの体力的・精神的なご負担も大きくなりがちです。当院では、このような非結核性抗酸菌症の診療を行っており、患者さま一人ひとりの病状や生活背景に合わせた丁寧な治療方針を心がけています。肺マック症でお悩みの方は、当院へご相談ください。
参考資料:
成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解 2023年改訂
https://www.kekkaku.gr.jp/wp-content/uploads/2023/06/876fc7b7e79db16bd4f10d91fc884e3c.pdf
日本結核・非結核性抗酸菌症学会 HP
https://www.kekkaku.gr.jp/medical_staff/
監修 呼吸器専門医・医学博士 表紀仁