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咳はなぜ女性に多い?? |その理由を呼吸器内科専門医がわかりやすく解説|

 

<長引く咳は女性に多い?>

 

多くの研究で、長引く咳(咳が8週間以上続く状態)は女性に多いことが示されています。日本のデータでは、女性が全体の60〜70%を占めると報告されています。1)-2) また咳で受診する患者様のうち最も多い年代が、60代の女性と言われています。3) 実際当院に咳で来院される患者様も女性が多いです。

 

これはなぜなのでしょうか?実は様々な理由があるのです。

 

理由①:ホルモンの影響:エストロゲンとプロゲステロン

 

女性ホルモンは、気道の感受性や炎症反応に強く影響します。そのため、喉の刺激(冷気・におい・会話など)に対しても咳が出やすくなります。月経前や更年期ではホルモン変動により咳が悪化することがあります。一部ではホットフラッシュや喉の違和感、咳がセットで起こることもあります。

 

理由②:肺機能の性差

 

女性は体格的に男性と比較して、気道径が細く、肺容量が小さいという特徴があります。そのため同じ刺激物質の濃度でも気道内濃度が相対的に高くなる可能性があります。これにより、同じ環境刺激(タバコ煙、冷気、花粉など)に対しても刺激が強く感じられる傾向があります。特に喘息や咳喘息では、この差が臨床的にも顕著に現れます。

 

理由③:気道感受性の性差:女性の咳反射が高い

 

女性は咳の感受性の高いと言われております。これは「咳反射の閾値が低い」ためです。「咳反射閾値」とは、カプサイシンなどの刺激で咳が誘発されるまでの感度を示す指標です。多くの研究で、**女性は男性よりも咳反射閾値が低い(つまり、刺激に敏感)**ことが明らかになっています。

 

理由④:中枢神経の感受性と痛覚過敏との共通点

 

咳感受性の増強は「痛み過敏」と似た神経メカニズムを持ち、脳の島皮質や前帯状皮質など、感覚・情動を統合する領域が関与します。女性ではこれらの領域の反応性が高いことが報告されており、「脳の過敏性」も咳の性差に寄与していると考えられます。

 

理由⑤:咳疾患は女性で多い

 

女性では以下の疾患が特に多く見られます:

・咳喘息(詳しくはこちら)

・アトピー咳嗽

・喉頭アレルギー・感覚過敏性咳嗽

 

これらはいずれも気道や喉頭の神経過敏性が中心的病態であり、まさに女性で多い理由と一致します。

 

 

<まとめ>

 

女性に咳が多いのは、単なる「気のせい」や「精神的な要因」ではなく、生理学的・神経学的・ホルモン学的に裏付けのある現象です。

 

咳は「防御反射」であると同時に、「感覚の過敏性」を反映する症状でもあります。女性ではその感受性が生理的に高く、特に更年期やストレス下で顕著になります。

 

治療においては、単なる咳止めではなく、原因に応じた治療や、咳の感受性を下げる治療(P2X3拮抗薬など)や、ホルモン変動・ストレスへの配慮も重要になります。

 

参考文献:

Respir Investig. 2024 May;62(3):442-448.

② Allergol Int. 2019 Oct;68(4):478-485.

③ 慢性咳嗽Library https://chronic-cough-library.jp/epidemiology/

 

 

 

記事作成:

名古屋おもて内科・呼吸器内科クリニック 院長 表紀仁

日本呼吸器学会呼吸器専門医・医学博士

 

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