<咳喘息とは?>
咳喘息はゼーゼー・ヒューヒューなどの喘鳴や息苦しさを伴わず、咳だけが持続する病気です。病態は典型的喘息と重なり、好酸球性気道炎症と気道過敏性がベースにあります。吸入ステロイドが症状改善と進行抑制の中心となります。
日本では長引く咳の主要原因の一つとして位置づけられ、臨床現場での遭遇頻度は高いです。1)
<どうして咳だけ?―病態のポイント>
好酸球性炎症により気道過敏性や咳受容体の感受性が上がることが原因です。喘息では、気管支が炎症によって細くなるため、ゼーゼーやヒューヒューなどの喘鳴や息苦しさがでますが、咳喘息ではこれらの症状はありません。
咳喘息は、ダニ・ハウスダスト、ペット(イヌ・ネコなど)・カビ(アスペルギルス・アルテルナリア)・花粉などのアレるぎー原因物質(アレルゲン)を吸入することで起こると言われています。これらのアレルゲンによりアレルギー炎症(好酸球性炎症)が気管支で引き起こされ、気道の過敏性が上がったり咳の受容性の感受性が高くなることで咳がでます。
<どんな症状が目印?>
① 乾いた咳が長引く(夜間・早朝・会話・笑い・冷気で悪化する)
② 喘鳴は目立たない/聴診で明らかな喘鳴(ゼーゼー・ヒューヒュー)がない
③ 感冒後に始まり長引く、季節性・アレルギー併存、運動・入浴蒸気・香料で誘発 など
<診断の進め方>
① 胸部レントゲン検査:他の咳の原因をまず除外します。咳喘息に似たような経過で、肺炎や肺がんなどの病気が隠れていることがあります。必要に応じて胸部CT検査を追加することがあります。
② 肺機能検査:多くは正常~軽度変化にとどまります。気管支喘息の場合は、閉塞性障害といい息を吐く力が低下します。
③ FeNO(呼気一酸化窒素):吸入ステロイド反応性予測に役立つ。カットオフは研究間で揺れがありますが、高値ほど吸入ステロイド反応が見込みやすい。
④ 治療的診断(トライアル):吸入ステロイドや気管支拡張剤による治療を開始して、治療が効果あるかどうか短期反応を見る「診断的治療」を行うことがしばしばあります。
参考資料:咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20250404085247.html
<治療>
1) 吸入ステロイドが土台
低〜中用量吸入ステロイド単剤または吸入ステロイド・気管支拡張薬の配合剤で開始し、4–8週のよくなっているかどうかを評価します。2)
2) 併用・追加
抗ロイコトリエン拮抗薬(モンテルカスト・ブランルカスト)を併用することがあります。
強い炎症例や症状の強い重症例では経口ステロイド薬を投与します。経口ステロイド薬としてはプレドニンやリンデロンといった薬剤を使用し、3~7日間の短期的な治療にとどめます。併存症(アレルギー性鼻炎、GERD、後鼻漏など)がある場合は、こちらの治療も並行して行います。
3) どれくらい続ける?
咳喘息の吸入ステロイド継続が推奨されていますが、どの程度継続するかはまだわかっていません。未治療だと成人で30–40%が典型喘息へ進展する一方、吸入ステロイド導入は進行を抑える可能性が示されています。NO高値の場合や咳の期間が長いケースなどは、少なくとも数か月以上、症状安定後も段階的減量が無難です。
<進行(喘息への移行)をどう防ぐ?>
① 早期からの吸入ステロイド:後ろ倒しにしない。
② アレルゲン対策と併存症コントロール(鼻炎など)
③ 吸入手技の最適化と服薬アドヒアランスの確保
④ FeNOや症状日誌でのモニタリング(高FeNOは吸入ステロイド反応予測に有用)。
<小児の咳喘息>
小児でも咳喘息は存在し、未治療では進行率が成人より高い可能性が示唆されています。治療の基本は吸入ステロイド+気管支拡張剤で、十分な期間の継続が推奨されます。
<よくある質問(FAQ)>
Q1. どれくらいで咳は止まりますか?
A. 個人差がありますが、吸入治療の開始後、2–4週間で明らかな改善を感じる方が多く、完全消失には数週間〜数か月かかることもあります。改善しても急な中止をすると再燃することがありますから、段階的減量が安全です。
Q2. 検査はつらいですか?
A. FeNOや肺機能検査(スパイロ)は比較的かんたんな検査で、痛みは伴いません。
Q3. モンテルカストなどの抗ロイコトリエン拮抗薬は効きますか?
A. ヨーロッパの呼吸器学会は成人の慢性咳で喘息性咳が疑わしい場合、2–4週間の抗ロイコトリエン拮抗薬トライアルを弱い推奨で提案しています。吸入ステロイドに上乗せ・代替で検討します。
Q4. 咳が長引くと本当の喘息になりますか?
A. 進行はゼロではありません。未治療咳喘息の30–40%が典型喘息へ移行すると言われています。早期の吸入ステロイド治療が鍵です。
<院長からのメッセージ>
咳喘息は“軽い咳だから様子見”で長引かせるほど、慢性化・再発・典型喘息化のリスクが上がりがちです。早期評価・早期治療・十分な継続が最短ルートです。
こちらの記事も参考になります。 咳喘息について
1)Respirology. 2005 Mar;10(2):201-7.
2)GINA喘息ガイドライン:https://ginasthma.org/
記事作成:
呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁