ブログ

COPDに対するデュピクセント(デュピルマブ)治療について

デュピクセント(一般名:デュピルマブ)はアレルギー炎症(好酸球高値など)のあるCOPD(肺気腫)に対する初の生物学的製剤として日本でも2025年3月に適応追加が行われました。年2回以上の増悪を繰り返す、吸入3剤併用(テリルジーやビレーズトリ)でもコントロール不良の方において、増悪率の30~34%低減や肺機能(一秒量)の有意な改善が示されています。適切な患者選択(血中好酸球数≥300/µLなど)が鍵となってくる薬です。 

 

<デュピクセントとは?>

デュピクセントはアレルギー性炎症(2型炎症)のカギとなる受容体(IL-4/IL-13受容体αサブユニット)をブロックして、炎症を抑制するヒト型抗体製剤になります。COPDのうち、血中好酸球高値(≥300/µL)などでアレルギー性炎症の関与が示唆されるサブタイプにおいて有効性が示され、吸入療法中心だったCOPD治療に新しい選択肢をもたらしました。

 

<主な治療効果は?>

期待できる効果は以下の2点です。

 

① COPD増悪抑制:

 COPDの急性増悪は、感染などをきっかけにして咳や痰、息苦しさが悪化する状態です。年間率増悪が約30~34%低減し救急外来・入院のリスクも低減する傾向があります。 

② 肺機能の改善:

 治療開始後12週間後に肺機能(一秒量)が有意に上昇し、1年継続で効果維持できます。 

 

<より詳しく解説:BOREAS試験とNOTUS試験>

 

BOREAS試験(NEJM 2023):

背景治療に吸入3剤治療療法を行う、血中好酸球≥300/µLのCOPD患者が対象となっている試験です。主要評価項目の年率増悪率は有意に低下しており、12週時点の肺機能(一秒量;FEV₁)は+160 mL(デュピクセント)対+77 mL(プラセボ)で差+83 mL程度デュピクセントで改善しています。QOLスコア(SGRQ)や症状スコア(E-RS)も有意に改善しています。安全性は概ねバランス良好でした。 

 

NOTUS試験(NEJM 2024):

同様の集団で、年率増悪0.86 vs 1.30(率比0.66)と34%相当のCOPD増悪低減効果がみられています。また肺機能(一秒量:FEV₁)・QOLスコアも改善しています。サブグループ解析でも一貫した効果を示しました。 

 

両試験を総括すると、吸入3剤でも増悪を繰り返す“2型炎症COPD”で、増悪抑制と肺機能・症状の改善が期待できます。

 

<実臨床でのデュピクセントの適応となる患者様>

 

 

・吸入3剤治療(テリルジーやビレーズトリ)でも増悪を繰り返す方

・血中好酸球高値(≥300/µL)、FeNO高値( ≥20 ppb)などアレルギー炎症がある方

・喘息のオーバーラップや鼻茸(ポリープ)などのある方

 

<投与間隔と用量は?>

成人で300 mgを2週ごと皮下注射します。基本的には自己注射で行います。 

 

<まとめ>

 

当院は、最新のエビデンスに基づき、2型炎症(好酸球高値)を伴うCOPDに対するデュピクセントの提供を開始しています。吸入療法で十分な効果が得られず、増悪を繰り返す患者さんに、増悪抑制と症状・生活の質の改善をめざす新しい選択肢を届けます。

私たちは、適切な患者選択と厳密なモニタリングを徹底し、患者さん一人ひとりの価値観に寄り添う共有意思決定(Shared Decision Making)で、安全かつ質の高い医療を実現します。

 

 

COPDに関する記事はこちら

 

<参考文献>

① Dupilumab for COPD with Type 2 Inflammation Indicated by Eosinophil Counts. N Engl J Med. 2023 Jul 20;389(3):205-214.

② Dupilumab for COPD with Blood Eosinophil Evidence of Type 2 Inflammation. N Engl J Med. 2024 Jun 27;390(24):2274-2283.

 

記事作成:

名古屋おもて内科・呼吸器内科クリニック

呼吸器内科専門医・医学博士 表紀仁

keyboard_arrow_up